【相続対策】遺言と任意後見で兄弟間の争いを予防
- 2026.10.13
将来の遺産分割をめぐって子ども同士が争うことを心配し、公正証書遺言と任意後見契約を準備することにした事例です。
相続後の手続きを第三者に任せることで、相続人同士が直接交渉しなくても済む仕組みを検討しました。
依頼者の属性
氏名:佐藤(仮名)
住所:水戸市
性別:女性
年齢:80代
争点
- 相続トラブル解決
- 相続人への連絡
- 分割方法
ご依頼の背景
依頼者には、娘と息子の2人のお子さんがいました。
依頼者は、自分が亡くなった後には、所有している土地と建物を売却し、その代金を含む財産を子ども2人に公平に分けたいと考えていました。
しかし、大きな心配がありました。
娘と息子との関係が良好とはいえず、特に娘は、弟と直接顔を合わせたり電話で話したりすること自体に強い精神的負担を感じていました。
依頼者も、相続が発生した後に子ども同士で財産の処分方法や取り分について話し合うことになれば、争いになる可能性があると心配していました。
そこで、
「自分が亡くなった後、子どもたちが直接話し合わなくても相続手続きを終えられるようにしたい」
「不動産は最終的に売却して現金化し、公平に分けたい」
という希望から、遺言書の作成について相談されました。
さらに、依頼者は82歳で、将来的に認知症や病気などによって自分自身で財産管理や契約手続きを行うことが難しくなる可能性についても考えていました。
その場合には、日頃から身の回りの世話をする予定の娘に、医療費や介護費用などの支払いを含めた財産管理を任せたいとの希望がありました。
その一方で、成年後見制度については、
「専門家が後見人になると、家族が必要なお金を柔軟に使えなくなるのではないか」
という不安も感じていました。
そのため、相続発生後だけではなく、生前の財産管理についてもあわせて相談することになりました。
弁護士の対応
弁護士はまず、
「生前の財産管理」
と
「亡くなった後の相続手続き」
を分けて考える必要があると説明しました。
生前の財産管理について
認知症などにより本人の判断能力が低下した後、何の準備もしていなければ、必要に応じて家庭裁判所に成年後見人を選任してもらうことになります。
成年後見制度では、必ずしも家族が後見人に選ばれるとは限りません。
そこで本件では、判断能力が十分にあるうちに、将来の財産管理を任せたい人をあらかじめ決めておく「任意後見契約」を検討しました。
依頼者の場合、将来の介護や生活面での支援を中心的に行う予定の娘に、必要となった場合の財産管理を任せる方法が考えられました。
任意後見契約を利用すれば、認知症などによって判断能力が低下した場合にも、あらかじめ依頼者自身が選んだ人を任意後見人として財産管理や各種手続きを行ってもらうことができます。
また、任意後見人には監督人が付き、財産管理について一定のチェックを受ける仕組みとなっています。
そのため、
「子どもの一人に財産を任せた結果、後になって他の子どもから使い込みを疑われる」
といった相続トラブルを予防する意味でも有効です。
家族信託との比較
相談では、家族信託という方法についても説明しました。
家族信託では、特定の財産について、
「将来こういう目的で使ってほしい」
とあらかじめ管理方法を決めて家族などに託すことができます。
例えば、認知症になった後に自宅を売却し、その代金を施設費に充てることがあらかじめ想定されている場合には、家族信託を利用する方法も考えられます。
もっとも、本件では特定の不動産を近い将来必ず処分しなければならないという事情まではありませんでした。
そのため、まずは本人の生活全般や財産管理を幅広く任せることができる任意後見契約の方が、依頼者の希望に合っていると考えました。
相続発生後について
次に、依頼者が亡くなった後の相続について検討しました。
依頼者の希望は明確でした。
所有する土地と建物については、将来的に売却し、現金化したうえで、子ども2人に公平に分けたいというものでした。
そこで、公正証書遺言を作成し、その内容として不動産の売却や財産の分配方法をできるだけ明確に定める方針としました。
さらに重要なのが、遺言執行者です。
遺言書があっても、相続人自身が不動産の売却や預貯金の解約などを進める場合には、兄弟間で連絡や協力が必要となり、再び対立が生じる可能性があります。
そのため本件では、相続人ではない第三者を遺言執行者として指定し、
- 不動産の売却
- 預貯金などの相続手続き
- 遺言内容に従った財産の分配
などを第三者が進める仕組みを検討しました。
これにより、相続発生後に娘と息子が直接連絡を取り合う場面をできるだけ少なくすることができます。
また、遺言について後から
「本当に本人が作ったのか」
「本人の意思だったのか」
などと争われるリスクを少なくするため、自筆証書遺言ではなく、公証人が関与する公正証書遺言を作成する方向となりました。
任意後見契約についても公正証書で作成する必要があるため、両方をあわせて準備することにしました。
結果
相談によって、依頼者が抱えていた問題を、
「認知症などになった後の生前の財産管理」
と
「亡くなった後の相続」
という2つの段階に分けて整理することができました。
生前については、将来判断能力が低下した場合に備えて、娘を中心とした任意後見の仕組みを準備する方針となりました。
相続後については、公正証書遺言を作成し、不動産を売却して子ども2人に公平に分配するという依頼者の意思を明確にするとともに、第三者を遺言執行者として指定する方向となりました。
これによって依頼者は、
「自分が認知症になったら財産をどう管理してもらうのか」
「亡くなった後に子ども同士が直接交渉しなければならないのではないか」
という2つの不安について、具体的な解決方法を確認することができました。
また、娘にとっても、将来弟と直接連絡を取りながら相続手続きを進めなければならないという精神的な負担を軽減できる見通しが立ちました。
今後、必要な戸籍、不動産の固定資産評価資料、預貯金資料などを準備し、公証役場と内容を調整したうえで、公正証書遺言と任意後見契約の作成を進めることになりました。
弁護士所感
相続対策というと、「遺言書を書けば十分」と考える方も少なくありません。
しかし、実際には亡くなる前に認知症や病気によって判断能力が低下し、自分で預金を管理したり、不動産の売却や施設入所の契約をしたりできなくなることがあります。
そのため、相続対策では、
「亡くなった後に財産をどう分けるか」
だけではなく、
「判断能力が低下してから亡くなるまで、誰が財産を管理するのか」
まで考えておくことが大切です。
本件のように、将来財産管理を担当する子どもと、相続人となる他の子どもとの関係に不安がある場合には、特に早めの準備が有効です。
何も決めないまま判断能力が低下すると、成年後見制度を利用する必要が生じ、誰を後見人とするかについて家族間で意見が対立する可能性もあります。
元気なうちであれば、任意後見契約によって自分が信頼する人をあらかじめ選び、自分の希望を伝えておくことができます。
また、相続発生後についても、公正証書遺言を作成するだけではなく、第三者を遺言執行者に指定しておくことで、相続人同士が直接やり取りする必要を大幅に減らせる場合があります。
特に、
「子どもたちの仲がよくない」
「自分が亡くなった後に相続争いをしてほしくない」
「一人の子どもに介護や財産管理を任せたいが、使い込みを疑われるような事態は避けたい」
「不動産を売却して公平に分けてほしい」
と考えている方は、遺言書だけではなく、任意後見や遺言執行者まで含めて一体的に検討することをおすすめします。
元気で判断能力が十分にある時期だからこそ、自分自身で将来の仕組みを選ぶことができます。
おわりに:お気軽にご相談ください
相続問題は、亡くなった後に始まるものだけではありません。
認知症への備え、財産管理、不動産の処分、遺言書、遺言執行者などをあらかじめ整理しておくことで、将来の家族間の争いを防げる可能性があります。
みとみらい法律事務所では、水戸市、ひたちなか市、那珂市、東海村などで、遺言や相続トラブルの予防についてもご相談をお受けしています。
「子ども同士を争わせたくない」「自分が認知症になった後のことまで決めておきたい」とお考えの方は、お気軽にご相談ください。























