介護をめぐって「使い込み」と疑われた預金引き出し…領収書がないと違法になる?
- 2026.05.05
依頼者情報の整理
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相談者
- 小林さん(仮名) 東海村 60代
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被相続人
- 母
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相続人
- 長男の子(代襲相続人)
- 次男
- 長女(相談者)
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財産内容
- 預貯金
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争点
- 被相続人の生前の預金の引き出しが「不正な払い戻し(使い込み)」かどうか
- 介護・生活費としての支出の妥当性
- 領収書・証拠の有無
- 相続人間での費用負担の合意の有無
相談者の背景事情(モノローグ)
「母の介護や生活費の管理を、私が中心となって行っていました。ところが相続が発生した後、その預金の引き出しについて『不正に使われたのではないか』と他の相続人から訴えられてしまいました。
実際には、葬儀費用や日常の生活費、介護に関する支出として使われていたものですが、細かい領収書がすべて残っているわけではありません。
また、当時は家族間で『必要な費用は共通で負担する』という認識があったものの、それがどこまで法的に認められるのか不安があります。
相手方からは、個々の支出について一つ一つ説明を求められており、どのように主張・立証すればよいのか悩んでいます。」
質問と回答(Q&A形式)
質問①
「領収書がない支出はすべて“使い込み”と判断されてしまうのでしょうか?」
回答
必ずしもそうではありません。
裁判所も「領収書がないことだけで直ちに不正とはいえない」と考える傾向があります。
重要なのは、その支出が被相続人のために合理的に行われたかどうかです。
例えば、介護費用や葬儀関連費用など、通常発生する支出であれば、一定の説明や資料(通帳履歴・介護記録など)により正当性を立証できる可能性があります。
質問②
「家族の間でまとめて任されていた場合でも、1回ごとの支出について同意が必要ですか?」
回答
通常は不要です。
裁判実務では、家族間で包括的に「生活費や介護費用の管理を任せる」という合意(包括的委任)が認められる場合があります。
この場合、その範囲内の支出であれば、個別に毎回の同意がなくても有効と評価される可能性があります。ただし、その“範囲(枠)”を超える支出については問題となるため、どの程度まで任されていたかが重要な争点となります。
質問③
「介護サービスを利用していた場合、自宅での負担は少ないと判断されますか?」
回答
一概にそうとは言えません。
デイサービスやショートステイを利用していても、送迎対応、日常の見守り、食事や住環境の管理など、家族の負担は依然として大きい場合があります。
裁判では、単なる利用日数ではなく、実際の介護状況(生活の流れや具体的な世話の内容)を丁寧に説明することが重要です。時間帯や日常の動きを具体的に示すことで、実態が理解されやすくなります。
アドバイスの要点整理
- 領収書がなくても直ちに不正とはならない
- 支出の「目的」と「合理性」が重要
- 家族間の包括的な管理委任は認められる可能性あり
- 問題は“委任の範囲を超えているかどうか”
- 介護負担は利用サービスだけでは判断されない
- 具体的な生活状況・介護内容の説明が有効
- 通帳履歴・介護記録・認定資料などの収集が重要
弁護士の所感(結論)
本件は、「家族による財産管理」と「使い込みの疑い」が衝突する典型的な相続紛争です。特に、介護を担っていた相続人と、そうでない相続人との間で認識のズレが生じやすい分野といえます。
裁判においては、「形式的な証拠の有無」だけでなく、「実態として何が行われていたか」が重視されます。したがって、単に領収書の有無にこだわるのではなく、生活状況や支出の流れを具体的に説明することが極めて重要です。
また、家族間での暗黙の合意や役割分担は、法的には「包括的委任」として評価される可能性があります。この“枠”の中に収まる支出であることを示せれば、有利に働くでしょう。
本事例から学ぶべきポイントは、「日頃からの記録と説明の準備」です。相続発生後ではなく、介護や財産管理の段階から意識しておくことで、将来の紛争リスクを大きく減らすことができます。そのために、任意後見などを利用することも検討しておくべきです。
同様のトラブルでお悩みの方は、早期に専門家へご相談いただくことをおすすめします。























