親と同居する子が実家の不動産を相続するためにやるべきことと注意点
目次
はじめに
地方では、長男が親と同居して実家を守るというケースが今も多く見られます。
しかし、いざ相続の段階になると、他の兄弟姉妹との間で不公平感やトラブルが生じることも少なくありません。
実家を引き継ぐ長男としては、「親の世話をしてきた自分が相続するのは当然」と思っていても、他の相続人が必ずしも納得してくれるとは限らないのが現実です。さらに、実家の相続には代償金の支払いや維持管理の負担など、事前に考えておくべきことがたくさんあります。
子が親と同居している場合に、同居している子が実家を相続したいと考えるのは自然なことです。
特に地方では長男が両親と同居しているケースが多いので、親と同居している長男が実家を相続したいと考えるのは自然です。
ここでは、親と同居している子が実家の不動産を相続したいと考えた場合にやるべきことと注意点を説明します。
実家を相続したいというのは、単なる財産の継承ではなく、そこには、長年にわたって親の生活を支え、実家を守ってきたことへの自負やこれから将来も実家を守っていきたいという責任感や思い入れがあるからこそでしょう。
しかし、その一方で、実家の価値が大きい場合には、財産の配分に大きな偏りが出ます。
他の兄弟姉妹との公平な分配の問題がでてきます。家族が相続をきっかけにバラバラにならないようにするためには、事前に親や兄弟姉妹と話し合い、全員が納得できる形で相続を進めることが大切です。
親と同居する長男が実家を相続したい場合には、まずは生前対策が重要です。
以下では、実家を相続するために必要な準備と、トラブルを避けるための注意点を詳しく解説します。
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生前の計画的な準備
親と一緒に遺言書の作成を検討する
遺言書がない場合、遺産分割協議が必要となり、他の相続人から不公平だと言われる可能性があります。遺産分割で揉めないためには、親に公正証書遺言を作成してもらうことをお勧めします。遺言書には「実家を長男に相続させる」旨を具体的に記載し、また、他の財産とのバランスを考えた分配内容も明示しておくことが重要です。
ただし、注意すべき点があります。
子どもが親に遺言書を作ってもらおうとすると、「縁起が悪い」「死を意識したくない」といった心理的な抵抗を示すことがよくあります。
こうした感情は自然なものであり、無理に進めると親との関係が悪化したり、相続人同士の信頼関係を損なう原因にもなります。
いきなり「遺言書を書いて」と言うと、親が警戒することがあります。そのために親と不仲になってしまった例もたくさんあります。そのような場合は、エンディングノートの話題や、親の希望する介護・葬儀の内容などから話を広げて、最終的に遺言書の作成に導くのが効果的です。
生前贈与の活用を検討する
生前贈与によって親から不動産を先に譲り受ける方法もあります。
生前贈与には贈与税がかかるため、税理士への相談をお勧めします。また、贈与を受けた不動産は「特別受益の持戻し」の対象になる可能性があります。生前贈与をしても、その贈与は特別受益の「持戻し」により、相続財産に加算されます。生前贈与を利用する際には、「持戻し」が大きな争点となり得るため、その点については別に詳しく解説します。
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相続時に発生しやすい問題と対応方法
不動産は資産価値が高いため、実家を長男が相続する場合、他の相続人の遺留分を侵害しないか確認する必要があります。
遺留分侵害額請求があった場合、長男は金銭で他の相続人の遺留分を補償する必要があります。以下に生前贈与による遺留分侵害のケースをあげておきます。
生前贈与による遺留分侵害
父(被相続人)が所有する資産の総額は5,000万円でした。生前に実家(評価額4,000万円)を長男に贈与し、亡くなった時点で残っていたのは現金1,000万円のみです。父には長男、次男、三男の3人の子どもがいます。この場合どうなるでしょうか。
法定相続分と遺留分の考え方
法定相続分
- 総遺産額:5,000万円(4,000万円の不動産 + 1,000万円の現金)
- 相続人が3人いるため、各相続人の法定相続分は:
5,000万円 ÷ 3 = 1,666万円
遺留分の計算
- 遺留分は法定相続分の1/2です。
1,666万円 × 1/2 = 833万円 - 次男・三男それぞれの遺留分は833万円となります。
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遺留分侵害の発生
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長男の取り分
- 長男は実家4,000万円をすでに生前贈与で受け取っています。
- これは法定相続分(1,666万円)を大きく超えており、他の兄弟の取り分が減っています。
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次男・三男の取り分
- 父の残した現金1,000万円を次男と三男で分けると、それぞれ:
1,000万円 ÷ 2 = 500万円
- 父の残した現金1,000万円を次男と三男で分けると、それぞれ:
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遺留分の不足分
- 各自の遺留分は833万円ですが、実際には500万円しか受け取れません。
- 不足額:833万円 - 500万円 = 333万円
遺言や生前贈与をする場合には、あらかじめ、遺留分等について計算をして、いくら金銭が必要かを検討しておく必要があります。
トラブルを防ぐためのコミュニケション
実家を長男が相続する場合、他の兄弟姉妹との間で不公平感やトラブルが生まれないように、事前に家族全員で話し合い、親の意思を共有することが非常に重要です。
ただし、長男が主導して相続の話を進めると、「自分だけ有利に進めているのでは?」と疑われ、かえって対立が深まるリスクがあります。以下では、どのように話を進めるとスムーズでトラブルを避けやすいかを解説します。
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一人で進めない工夫が重要
長男が一方的に主導すると、他の兄弟姉妹が「押し付けられた」と感じてしまう可能性があります。そのため、親と他の兄弟姉妹が話し合いに参加する機会を作り、自然な形で全員の合意を目指すことが大切です。
いきなり長男が「相続について決めたい」と言い出すのではなく、親の意向を確認する機会を設けるようにします。たとえば、「親がどう考えているか、兄弟みんなで一緒に話を聞こう」といった形で全員での話し合いを促します。
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親の意思を中心に進める
相続の話をする際には、「親がどうしたいか」を軸に話を進めることが重要です。長男が前に出るのではなく、親の気持ちや希望を家族みんなで聞き出すことで、他の兄弟姉妹の不満を防ぐことができます。「この家について、お父さんとお母さんはどう考えているか、みんなで聞いてみたいね。」「これからのことをどうしたいか、親の気持ちを教えてもらえれば、家族全員で支えていけるよ。」などが自然です。
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相続の話を生活面から自然に始める
いきなり「相続」の話をするのはデリケートな問題で、親や兄弟姉妹が抵抗を感じやすいものです。そのため、エンディングノートや生活面の希望を確認するところから始めるのが効果的です。話の切り出し方としては、「もし何かあったときに困らないように、父さんの希望を教えてもらいたいな。」「医療や介護のことも含めて、今のうちに考えておいたほうが安心だよね。」
こうした話題から始めると、家族全員で自然に相続の話に移りやすくなります。
他の家族の気持ちも考慮しながら、進めてください。
不動産の相続をする場合の検討事項
不動産を特定の相続人に渡そうとする場合、生前贈与・遺言の作成、それらがない場合には遺産分割協議によるものが考えられます。
それぞれで異なる課題が生じ、検討すべき点があります。詳しくみていきたいと思います。
- 生前贈与を考える場合
不動産を生前贈与する場合に、検討しなければならないのは、贈与税の検討と「特別受益の持戻し」です。ここでは「特別受益の持ち戻し」について説明します。
特別受益の持戻しとは
「持戻し」とは、ある相続人が被相続人から生前に贈与を受けた財産(特別受益)を、相続時の財産に加算して計算する制度です。これにより、生前贈与を受けた相続人が他の相続人よりも多くの財産を取得することで、不公平が生じるのを防ぎます。以下、具体的に考えてみましょう。
具体例
- 被相続人の遺産:3,000万円の現金
- 長男は親から1,000万円相当の不動産を生前に贈与されていた
- 次男、三男とともに、相続人は3人
持戻しによる遺産総額の計算
生前に長男が贈与された1,000万円の不動産も、遺産の一部として考えます。
- 遺産総額:3,000万円(現金)+ 1,000万円(生前贈与の不動産)= 4,000万円
各相続人の法定相続分
4,000万円 ÷ 3 = 1,333万円
- それぞれの相続人が1,333万円ずつ取得するのが基準となります。
長男の取り分の計算
長男はすでに1,000万円の不動産を受け取っているため、相続時にはあと333万円(1,333万円 - 1,000万円)を受け取ることができます。
- 次男・三男は、それぞれ1,333万円ずつ取得します。
持戻しの免除
持ち戻し免除とは、被相続人(亡くなった人)が特定の相続人に与えた生前贈与や遺贈を、遺産に含めず計算することを指します。
たとえば、長男が親から1,000万円相当の不動産を贈与されていた場合、相続開始時にその不動産の価値を遺産総額に加算した上で、相続分を計算するのが「持ち戻し」ですが、「持ち戻しの免除」があると、贈与された不動産の価値を相続財産に加算しなくてもよいことになります。
前記の具体例の場合でいうと、3,000万円の現金だけを遺産として分けることになりますので、一人1000万円を取得することになります。
持ち戻し免除の理由は、被相続人が「この贈与は相続分とは別にあげたもの」と考えた場合、その相続人を特別に優遇したいという被相続人の意思を反映させるようというものです。
なお、持ち戻しの免除があったかどうかで争いとなることがあります。被相続人が「持戻しをしない」という意思を遺言や贈与契約書に明示している場合には、免除の意思が明確であるため、贈与財産が遺産に加算されません。はっきりしない場合は、持ち戻しの免除の意思があったか否かをめぐって争いとなる可能性があります。そのため、免除の意思表示を明確に書面で残すことが、トラブルの防止に効果的です。
なお、被相続人が「持ち戻しをしない」という意思を明示していたとしても、その贈与の額が多額のために、他の相続人の遺留分が侵害される場合は、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクがあります。
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遺言を考える場合
遺言で不動産を渡す場合には、必ず遺留分侵害のリスクについて考えておきましょう。
公正証書遺言の作成
遺言によって特定の相続人に不動産を相続させる場合、自筆証書遺言と公正証書遺言とが考えられますが、自筆証書遺言でも可能ですが、自筆証書遺言は、後でトラブルになりやすいので、公正証書遺言で作成することをお勧めします。
公正証書遺言を作成するのであれば、公証役場へ行けばよい、弁護士に相談する必要はないと考える人がいますが、公証役場では、遺留分侵害への対策をどのようにするかまではサポートしてくれません。そのため、公正証書遺言で作成した場合でも、多くの場合は遺留分侵害となっており、他の相続人から遺留分侵害額請求をされています。そのようなことにしないためには、弁護士に相談することをお勧めします。
遺留分侵害への配慮
遺言をする場合には、あらかじめ、他の相続人の遺留分を侵害しないかどうか、その場合に、どうなるかを検討してください。そのためには、財産のリストを作成し、それぞれの金額を記入して、遺言によってどのように財産が配分されるかのシミュレーションをすることが大切です。不動産の場合は、すでに述べたとおり、評価額がいくつかありますので、どの評価額を使ってシミュレーションするかが大切です。
遺言執行者
遺言によって特定の相続人に不動産を相続させる場合、他の相続人との間で不公平感や誤解が生じ、トラブルに発展しやすいものです。一般的に、公正証書遺言には、遺言執行者として、不動産を相続する相続人などを指定するケースが多く見受けられます。遺言執行者には、相続人に対し遺言内容や手続きの進行を正確に通知する義務があります。ところがそのことを知らないで、何もしないことがあります。また、通知をしたら他の相続人から遺言書に対する不満をぶつけられて精神的に辛い思いをすることがあります。弁護士が遺言執行者とすることで、こうした通知も確実に行われ、相続人全員が納得できる形での相続をすすめることができます。遺言書の内容から、相続人どうしでの感情的な対立に発展し、相続手続きが長引く原因となることもあります。こうしたトラブルを避け、相続を円滑に進めるためには、弁護士を遺言執行者に指定することは効果的です。
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遺言がない場合の遺産分割
遺言書がない場合には、遺産分割協議を行い、遺産の配分を決めていくことになります。もし、相続人で話し合っても合意が得られない場合には、家庭裁判所で調停をすることになります。
遺産分割は、お金や不動産が絡む問題であるため、感情的な対立が生じやすく、トラブルに発展することも少なくありません。
たとえば、財産の評価に関して意見が相違する可能性があります。不動産や株式などの財産は、評価基準によって金額が大きく異なるため、どの評価方法を使うかで争いが生じます。賃貸物件などの収益物件は、将来の収益をどう評価するかで不公平感が生まれます。実家の不動産を誰が相続するかで、感情的な争いになりやすいですし、不動産を取得する相続人が出ると、他の相続人に代償金(現金での補償)を支払う必要があり、これが負担や不公平感の原因になります。
不動産や株式などの資産は、固定資産税評価額、路線価、実勢価格など複数の評価方法があります。それを理解した上で、どの評価方法を使うかを検討しておくこと、また、不動産鑑定士や不動産業者に査定を依頼し、客観的な評価額をもとに協議を進めることも有効です。遺産分割協議書を作成する際に、漏れないこと、また、曖昧な書き方をして後から疑義が出てしまい、揉めることがないようにすることも必要です。
不動産相続で弁護士に依頼するメリット
不動産を含む遺産分割で、遺言書がない場合、相続人全員で話し合って遺産の分け方を決める「遺産分割協議」が必要です。しかし、不動産は評価額が大きく、分割しにくいため、相続人同士の意見が対立し、感情的なトラブルに発展することも珍しくありません。そのため、こうしたケースでは弁護士のサポートを受けることが非常に有効です。以下では、遺産分割協議や家庭裁判所の調停を進める上で、弁護士に依頼する必要性について解説します。
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不動産の評価と分割に関する専門的なサポート
不動産の相続では、評価方法や分割方法の違いが争いの原因になりやすいです。不動産の価値は、固定資産税評価額、路線価、実勢価格など、複数の基準で異なるため、相続人がそれぞれ異なる評価を主張することが多くあります。
弁護士に依頼することで、不動産鑑定士や不動産業者との連携を通じて、客観的で納得感のある評価を提示できます。また、売却して現金化するか、特定の相続人が取得するかという重要な分岐点でも、弁護士が各相続人の意向を調整し、スムーズな解決を図ります。
- 代償金の調整による公平な分配の実現
特定の相続人が不動産を相続する場合、他の相続人に対して代償金(現金での補償)を支払う必要が出ることが多く、これがトラブルの原因になります。
弁護士は、代償金の金額や支払い方法(分割払いなど)について具体的な検討をします。こうした代償金の調整が適切に行われないと、不公平感が生じて相続人同士の不満が募り、協議がまとまらなくなるリスクがあります。弁護士のサポートにより、公平な配分が実現でき、合意形成を円滑に進めることができます。
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感情的な対立を防ぐ第三者としての役割
不動産を含む相続では、長年の家族関係における不満やわだかまりが、遺産分割の話し合いで噴出することがあります。たとえば、「親と同居していた兄弟だけが得をしているのではないか」「親の介護を担当したのは同居していた長男とその妻だ」などです。いったん、こうした感情的な対立が表面化してしまうと、家族同士で解決するのが難しく、話し合いが進まない原因になります。弁護士が第三者として間に入ることで、冷静な進行が可能になります。また、弁護士は法的な根拠に基づいて公平な提案を行うため、相続人同士の誤解や不信感を解消し、合意形成をサポートします。
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調停や審判の対応もスムーズに進む
遺産分割協議で合意が得られない場合、家庭裁判所での調停に進むことが必要になります。調停では、調停委員を間に挟んで話し合いが行われますが、話し合いとはいっても、法律や不動産の専門知識が求められる場面が多くあります。理解せずに、進めると不利益を被ることがあります。弁護士が調停に同席することで、主張すべきポイントを適切に伝え、相続人の権利を守ることができます。
もし調停でも解決できなかった場合、最終的には審判(裁判)に移行します。審判では、当事者の主張や証拠に基づいて裁判所が判断を下しますが、弁護士がいることで、適切な主張の準備や証拠の整理を確実に行うことができます。
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トラブルを未然に防ぐための協議書作成
話し合いで合意に至った場合も、その内容を遺産分割協議書として文書化することが重要です。曖昧な合意や決めておくべきことが漏れている場合には、後から「そんなことは聞いていない」といった誤解が生じ、再びトラブルになることがあります。
弁護士が合意内容を法的に有効な書面としてまとめることで、将来の紛争を防ぎ、相続手続きをスムーズに進めることが可能になります。
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複雑な相続税や不動産登記の手続きもサポート
不動産相続には、相続税の申告や不動産登記の名義変更といった手続きも必要です。これらの手続きには専門知識が求められ、ミスがあるとペナルティが発生するリスクもあります。弁護士は、税理士や司法書士と連携し、相続税や登記手続きも含めたトータルなサポートを提供するため、相続人の負担を軽減します。
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弁護士に依頼することで相続の安心を実現
不動産を含む遺産分割で、遺言がない場合の相続手続きは、財産の評価や代償金の調整、感情的な対立など、複雑でトラブルが発生しやすいものです。こうした状況で、弁護士のサポートを受けることで、以下のようなメリットが得られます。
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