不動産を特定の相続人に相続したい場合の注意点について弁護士が解説!
特定の相続人に不動産を相続する場合、他の子どもに対して代償金(現金での補償)を支払う必要が生じることもあります。これが新たな経済的負担となり、感情的な対立を引き起こすケースも多く見られます。
こうしたトラブルを避けるためには、親が生前に自分の希望を明確に示し、家族全員で話し合うことが不可欠です。特定の相続人に不動産を引き継がせたい場合、遺言書を作成するか、生前贈与を活用することを検討しましょう。これにより、親の意向が確実に反映され、相続人が混乱することなく円満に相続を進めることができます。しかし、その場合でも、遺留分侵害や代償金支払いのリスクについて検討しておく必要があります。
目次
遺言書による不動産の相続
遺言によって特定の不動産を相続させる
遺言書を用いることで、特定の相続人に不動産を相続させることができます。
公正証書遺言で作成すれば形式不備のリスクが低く、迅速な相続が可能です。
遺言書に「特定の不動産を特定の相続人に相続させる」旨を具体的に記載しておくことで、家族間の争いを防ぎやすくなります。
遺留分侵害のリスク
特定の相続人に相続させる不動産の価値が大きい場合、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。 遺留分侵害が発生すると、他の相続人が「遺留分侵害額請求」をしてきます。そうなると、不動産を相続した相続人は、金銭で遺留分を支払うことになります。
そのため、遺言書を作成する際には、他の相続人の遺留分を侵害することにならないか、もし、侵害することになったら、いくら支払うことになるのかシミュレーションしておく必要があります。
遺留分侵害を避ける方法
遺言書を作成する際に、遺産リストを作成し、それらの評価額を出します。そして、それらの遺産を配分する際に、配分を工夫し、他の相続人がある程度財産を取得できるように、つまり、それらの相続人が遺留分に相当する財産を取得できるようにします。
生前贈与を活用
生前贈与と持ち戻し
不動産を生前に贈与することによっても、特定の不動産を特定の相続人に渡すことは可能です。
しかし、税金の問題と持ち戻し、さらには遺留分侵害の点について検討が必要です。
生前贈与には贈与税がかかるため、いくらの税負担が生じるか考慮することが必要です。なお、贈与については、一定額までは贈与税がかからないように扱う相続時精算制度があります。相続時精算課税制度は、親や祖父母が生前に子どもや孫に贈与した財産について、贈与税を一定額まで非課税にし、その後の相続時にまとめて税金を計算する制度です。1人あたり2,500万円までの贈与が非課税となりますが,2500万円を超えた分には、一律20%の贈与税がかかります。デメリットもありますので、詳しいことは必ず税理士と相談してください。
また、持ち戻しの点も考慮する必要があります。
生前贈与をすれば、贈与した財産はその後の遺産分割とは関係なくなる、つまり、亡くなった時の財産を分けるだけでよいと誤解している人がたくさんいます。
しかし、生前贈与をしても、その贈与は特別受益の「持戻し」により、相続財産に加算されることがあるので、注意が必要です。
実は、生前贈与を利用する際には、後から「持戻し」が大きな争点となるため、その点についての考慮が必要です。この点は、別に詳しく解説します。
生前贈与が遺留分に与える影響
生前贈与した不動産の価値が大きい場合には、他の相続人の遺留分を侵害することもあります。その場合は、相続開始後に他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクがあります。
そのため、贈与する財産の価値と遺留分の調整を事前に考慮することが重要です。
生前贈与による遺留分侵害の具体例
父(被相続人)が所有する資産の総額は5,000万円でした。生前に実家(評価額4,000万円)を長男に贈与し、亡くなった時点で残っていたのは現金1,000万円のみです。父には長男、次男、三男の3人の子どもがいます。この場合どうなるでしょうか。
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法定相続分と遺留分の考え方
法定相続分
- 総遺産額:5,000万円(4,000万円の不動産 + 1,000万円の現金)
- 相続人が3人いるため、各相続人の法定相続分は:
5,000万円 ÷ 3 = 1,666万円
遺留分の計算
- 遺留分は法定相続分の1/2です。
1,666万円 × 1/2 = 833万円 - 次男・三男それぞれの遺留分は833万円となります。
- 遺留分侵害の発生
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長男の取り分
- 長男は実家4,000万円をすでに生前贈与で受け取っています。
- これは法定相続分(1,666万円)を大きく超えており、他の兄弟の取り分が減っています。
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次男・三男の取り分
- 父の残した現金1,000万円を次男と三男で分けると、それぞれ
1,000万円 ÷ 2 = 500万円
- 父の残した現金1,000万円を次男と三男で分けると、それぞれ
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遺留分の不足分
- 各自の遺留分は833万円ですが、実際には500万円しか受け取れません。
- 不足額:833万円 - 500万円 = 333万円
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遺留分侵害額請求のリスク
次男と三男は、それぞれ333万円の遺留分が侵害されているため、遺留分侵害額請求をする権利があります。この場合、長男は次男と三男に対して、不足分の333万円ずつ、合計666万円を現金で支払う必要があります。
遺留分侵害や代償金支払いの考慮
特定の不動産を相続させたい場合、遺言や生前贈与を活用することが有効ですが、遺留分侵害のリスクを検討しておくことが必要です。
さらに、遺留分侵害がない場合でも、円満な相続をするためにはある程度公平な配分が必要です。そこで、他の相続人に対する代償金支払いの可否を検討することも重要です。
弁護士や税理士といった専門家の助言を受け、資産と税務の両面でバランスの取れた相続となるよう準備を整えましょう。
相続トラブルを防ぐためのコミュニケション
同居している子に実家を相続させるときは、他の子どもたちが不公平感を持たないように、事前に家族でしっかり話し合い、理解を得ておくことが大切です。特に、親の気持ちや考えを子どもたち全員に正直に伝えることが重要です。
「実家はどうしてほしいか」を親の意思として共有する
親として「実家をどうしたいか」「なぜ長男に相続させたいのか」という自分の希望を明確に伝え、それを家族全員で共有することが必要です。相続の話題は言い出しにくいかもしれませんが、こうした意思を曖昧にしたままにしてしまうと、相続のときにトラブルの原因になります。
遺言書だけでは家族の納得を得られないことも
「遺言書を作っておけば大丈夫」と考える人もいますが、何の事前の話し合いもなく、いきなり遺言書が出てくると、子どもたちが納得できないことが多いです。特に、遺言書で実家を長男に相続させる内容だった場合、他の兄弟姉妹から「長男が無理に書かせたのでは?」と疑われ、トラブルになることがあります。
トラブルを防ぐために必要なこと
こうしたトラブルを避けるためには、親自身が「実家はどうしてほしいか」を早めに明確に伝えることが大切です。家族全員で親の考えを聞き、子どもたち同士が納得しておけば、相続の際に不満が残ることなく、円満に話し合いが進みます。
不動産を特定の相続人に相続したい場合の注意点まとめ
特定の相続人に実家を相続させる場合は、早めに親の意思を伝え、家族全員で話し合いの場を持つことが、相続トラブルを防ぐための最善の方法です。遺言書を準備するにしても、親の考えを事前に共有し、家族の理解を得る必要があります。また、トラブルになる前に早めに弁護士に相談することをお勧めいたします。