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【相談事例】会社債務を抱えた夫の相続放棄

2026.10.13

会社経営者であった夫が亡くなり、会社の借入れに対する多額の連帯保証債務が残りました。

家族は相続放棄を希望していましたが、携帯料金やリース料、税金、車両、個人借入など、何を支払ってよいのか分からない状態でした。

本件では、相続放棄を維持するための注意点と、会社財産・個人財産の区別を整理しました。

依頼者の属性

氏名:田中さん(仮名)
住所:ひたちなか市
性別:女性
年齢:60代

争点

相続トラブル解決

遺産の範囲

分割方法

※本件は通常の遺産分割ではなく、多額の債務を抱えた相続について、相続放棄を中心に対応を検討した事例です。

ご相談の背景

小林さんの夫は、会社を経営していました。

しかし、会社の経営状況は厳しく、金融機関などに対して多額の債務がありました。

夫自身も会社の借入れについて連帯保証人となっており、個人としても1億円を超える規模の保証債務を負っている可能性がありました。

そのような中で夫が亡くなったため、小林さんと子どもたちは、

「このまま相続すると、会社の借金まで自分たちが背負うことになるのではないか」

と強い不安を感じていました。

そこで、家族は相続放棄をする方針となりました。

ところが、相続放棄の手続を進める中で、次々と実務上の問題が発生しました。

たとえば、

亡くなった夫と妻が一緒に契約していた携帯電話料金、会社で使っていた機械のリース料、固定資産税や自動車税、夫個人の未払税金、知人からの借入金、夫名義で登録されている会社使用の車両

などについて、

「支払ってよいのか」

「名義変更してよいのか」

「銀行や会社から言われた手続をしてよいのか」

が分からない状態でした。

さらに、会社は事実上経営を継続できない状態でしたが、家族は会社の代表取締役ではなく、会社名義の財産や預金を動かす権限があるのかについても疑問を持っていました。

一方、夫の母親は相続放棄をせず、相続人として残る可能性がありました。

そのため、

「子どもたちが相続放棄した後、夫の母親に財産や借金が移るのか」

「母親が生活保護を受ける予定だが、相続財産がある場合どうなるのか」

という問題もありました。

弁護士の対応

まず、最も重要な点として、

相続放棄をするのであれば、亡くなった方の財産や債務に不用意に手を付けないこと

をご説明しました。

相続放棄は、

「財産はいらないが、借金も引き継がない」

という制度です。

ところが、亡くなった方の借金を自分の判断で返済したり、財産を処分したりすると、場合によっては相続を承認したと評価されるリスクがあります。

そこで、小林さんたちには、

「夫の債務は原則として支払わない」

「夫名義の財産を勝手に処分しない」

「会社関係の書類にも安易に署名しない」

という基本方針をご案内しました。

携帯電話料金なども原則として慎重に対応

夫と妻の携帯電話料金が一括請求になっており、死亡後も数か月分の請求が発生していました。

このような場合、相続放棄を予定している家族が、亡くなった方の債務として支払うことには注意が必要です。

そこで、

亡くなった方の分を相続放棄する家族が支払うのではなく、相続人として残る方の負担として整理できるかを確認する

など、慎重に対応するようご説明しました。

重要なのは、相続放棄をする家族自身が、

「亡くなった方の借金を自分が引き受けます」

という行動を取らないことです。

会社のリース料や銀行手続には関与しない

会社で使用していた機械について、金融機関から、

「残高不足なので支払いをしてほしい」

「会社の手続があるので来店してほしい」

と連絡がありました。

しかし、小林さんたちは会社の代表者ではありませんでした。

そのため、

「相続人であること」と「会社を代表して手続できること」は別問題

であることをご説明しました。

会社は法人として独立した存在です。

父親個人が亡くなったからといって、家族が当然に会社名義の預金を動かしたり、会社の契約を変更したりできるわけではありません。

そこで、

「会社の代表者ではないため対応する権限がない」

「相続放棄も予定しているため、亡くなった方個人の債務についても対応できない」

と説明し、安易に書面へ署名しないよう助言しました。

会社財産と個人財産を区別

今回、会社で使用していたタンクローリーなどの車両の中に、会社名義ではなく、亡くなった夫個人の名義で登録されているものがありました。

会社のお金で購入し、会社の業務に使用していたとしても、登録名義が個人であれば、相続財産として扱われる可能性があります。

そのため、

「会社で使っていたから会社のもの」

と単純に判断するのではなく、

誰の名義なのか、誰が所有者なのか

を確認する必要があります。

家族が相続放棄した後、その財産を誰が承継するのかを確認してからでなければ、売却や名義変更をしてはいけないことをご説明しました。

個人から借りた200万円の返済について

亡くなった夫には、取引先の担当者から個人的に借りた約200万円の債務もありました。

家族としては、長年付き合いのある相手であったため、

「迷惑をかけたくないので返したい」

という気持ちがありました。

しかし、相続放棄をする家族が夫の借金を返済すると、相続放棄との関係で問題になる可能性があります。

そこで、

相続放棄をする家族自身が返済することは避けるべきである

とご説明しました。

また、相続人として残る人が特定の債権者だけに返済する場合についても、他の債権者との公平性が問題となる可能性があります。

特定の債権者だけを優先して返済した場合、状況によっては後から問題になる可能性があるため、債務全体を確認して判断する必要があります。

相続放棄後の債務の行き先も説明

小林さんと子どもたちが相続放棄すると、次順位の相続人へ相続権が移る可能性があります。

今回の場合、夫の母親が相続人として残る可能性がありました。

そのため、プラスの財産だけではなく、連帯保証債務などのマイナスの財産についても、母親側に移る可能性があります。

小林さんからは、

「母親も自己破産した方がよいのか」

という質問もありました。

これについては、必ずしも直ちに破産手続を取る必要があるとは限らず、

実際にどの程度請求されるのか、母親に換価できる財産がどの程度あるのか、破産手続にかかる費用や負担

などを考慮して判断する必要があることをご説明しました。

生活保護との関係も整理

夫の母親は、今後、生活保護を利用することも検討していました。

しかし、相続によって車両などの財産を取得すれば、その財産の処分や生活費への充当を求められる可能性があります。

そのため、

「相続財産がある状態」と「生活保護を受給すること」

は別々に考えるのではなく、相続財産をどう整理するかも含めて検討する必要があります。

相続放棄受理証明書を各所へ提出

相続放棄の手続が完了すると、家庭裁判所から相続放棄を受理したことを証明する書類を取得できます。

その証明書を、

市役所、税務署、金融機関、債権者など

へ提示することで、

「自分は相続人ではなくなったため、この債務について支払義務を負わない」

ということを説明しやすくなります。

固定資産税、自動車税、亡くなった方の未払税金などについて請求が来た場合にも、この書類を利用して対応する方針としました。

結果

今回の相談によって、小林さんたちは、

「相続放棄の申立てさえすれば、後は何をしてもよい」

わけではないことを理解されました。

相続放棄が正式に認められるまでの間はもちろん、その後についても、

亡くなった夫の財産を勝手に処分しないこと、夫の借金を自分たちで支払わないこと、会社の代表者でもないのに会社関係の契約や銀行手続を行わないこと

が重要であることを確認しました。

また、

会社の借金と夫個人の連帯保証債務は分けて考えること、会社で使っていた物でも個人名義なら相続財産となる可能性があること、相続放棄後は次順位の相続人へ権利義務が移る可能性があること

も整理できました。

小林さんたちは必要な住民票の除票などを準備し、家庭裁判所へ相続放棄の手続を進めることになりました。

相続放棄が受理された後は、受理証明書を取得し、税務署、市役所、金融機関など必要な関係先へ提出していく方針となりました。

「どの請求を払ってよく、どの財産に触ってはいけないのか分からない」

という状態から、一つひとつ対応方針を整理できたことで、今後の見通しが立つようになりました。

弁護士所感

亡くなった方が会社経営者で、多額の借入れについて連帯保証をしている場合、相続は非常に慎重に進める必要があります。

預貯金や不動産といったプラスの財産よりも、保証債務などのマイナスの財産が大きい場合には、相続放棄が有力な選択肢になります。

ただし、相続放棄で特に注意したいのが、

「放棄するつもりなのに、亡くなった方の財産や借金を自分で処理してしまうこと」

です。

「少額だから払ってしまおう」

「長年世話になった相手だから借金を返してあげよう」

「会社の物だから家族が処分しても問題ないだろう」

と考えて行動すると、後から相続放棄との関係が問題となることがあります。

相続放棄を考えている場合には、まず、

「触ってよいものと、触ってはいけないもの」

を専門家に確認することが重要です。

また、会社経営者の相続では、

会社の財産と個人の財産、会社の借金と個人の保証債務

が混在していることが珍しくありません。

「会社で使っていたから会社の物」

「会社の借金だから家族には関係ない」

と自己判断せず、名義や契約内容を一つずつ確認する必要があります。

多額の負債がある相続ほど、早い段階で専門家へ相談することで、不要な債務を背負ってしまうリスクを避けやすくなります。

おわりに:お気軽にご相談ください

家族が亡くなった後、

「会社の借金の連帯保証人になっていた」

「金融機関から返済を求められている」

「相続放棄をしたいが、携帯料金や税金を払ってよいか分からない」

といった問題が生じることがあります。

みとみらい法律事務所では、水戸市、ひたちなか市、那珂市、東海村などを中心に、相続放棄や債務を含む相続問題について対応しています。

相続放棄は、手続そのものだけでなく、申立ての前後にどのような行動を取るかも重要です。

多額の借金や連帯保証債務が判明した場合には、財産や債務に手を付ける前に、お早めにご相談ください。

 

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