遺留分侵害トラブルについて弁護士が解説!
はじめに
遺留分(最低限保障されている取り分)に関するトラブルで一番多いのが、一部の相続人だけにほとんどの財産を与える内容の遺言が作成された場合です。
よくあるのは「遺産はすべて長男に相続させる」といった遺言書です。
本来であれば、遺言書を作成するときには、遺留分のことも考慮しながら作成すべきなのですが、高齢になってから遺言書を作成する場合、複雑な内容の遺言書を作るのが難しく、また面倒であったりするため、このような「すべてを○○に相続させる」タイプの遺言書が作られます。このような遺言書は、他の相続人へほとんど財産を渡さないため、他の相続人の遺留分(最低限保障されている取り分)を侵害しています。そのため、遺留分をめぐるトラブルになることが多いです。
遺留分侵害が問題となるトラブル以下のようなものがあります。
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遺言書による遺留分侵害のトラブル
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生前贈与による遺留分トラブル
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相続財産や贈与財産の評価の違いによるトラブル
これらについて見ていきましょう。
遺言書による遺留分侵害のトラブル
遺言書による遺留分侵害のトラブル例は以下のようなものです。
父は「遺産は長男に全て相続させる」と遺言書をのこしていた。
相続人は母と子2人であった。子の1人がこの遺言に納得いかず、遺留分を長男に請求したが、長男は「父が遺言書まで作って、遺してくれた遺産なのだから渡さない」とトラブルとなった。
遺言書が作られるのは、法定相続分と異なる割合で相続させたい場合や、相続人ではない人に遺産を譲りたい場合などです。遺言書があれば、その内容で遺産は配分されるのが原則です。
しかし、遺言書に書いたとしても絶対ではありません。相続人が遺留分を侵害されている場合(最低限保障されている取り分さえももらえない場合)は、その侵害額(最低限保障されている額に不足している額)を請求できます。
そのため、遺言書による財産の配分が一部の相続人に極端に偏ってしまっている場合には遺留分が請求されることが多いのです。
遺言書があるのは、被相続人が何らかの思いや考えがあってのことであるため、請求される側からすると、せっかくこのような遺言書を遺してくれているのに、遺留分を請求してくるということはその思いを無視するつもりなのかという気持ちになります。また、そもそも、遺留分という仕組みについて知らないため、遺言書に書かれていればその内容は絶対だと思い込んでいることもあります。
このような気持ちのすれ違いや遺留分に関する知識不足から、遺留分の話し合いに応じてもらえず「トラブルに発展してしまう」ことが多いといえます。
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遺言書による遺留分侵害のトラブルへの対応
遺言書があり、その遺言書のために遺留分に関するトラブルが発生しそうな場合、可能であれば話し合いでの解決が望ましいといえます。
もし、トラブルに発展してしまうと調停や訴訟など裁判所を介して解決をしなければならなくなり、そうなると、時間や労力だけではなく、費用もかかってしまいます。また、トラブルになると、家族関係が破壊されてしまうからです。
話し合いをする際には、相手の気持ちに対する配慮が必要です。誰でも、きつく言われるとついカチンときます。いったん感情的になると、後戻りはできません。あまり刺激しないよう穏やかに話し合いましょう。
遺言書による遺留分侵害の考え方
まずは、遺留分侵害となっているかどうかを確認します。
具体的には、
①遺言による配分が偏っていないかを確認する
まずは、遺言の内容が一部の相続人だけ優遇されていないか、一部の相続人が不公平となる内容になっていないでしょうか。
ただし、偏っていたとしてもそれがすべて遺留分侵害にはなるわけではありません。遺留分の侵害になるのは配分が極端に偏っていて、そのために最低限保障されている取り分さえももらえない場合です。そこで、遺留分侵害となっていないかを計算することになります。
②遺留分を計算する
一部の相続人だけ極端に優遇されている、一部の相続人がすごく不公平な配分になっていた場合には、その相続人の遺留分を侵害している可能性があります。そこで、遺留分侵害となっているかを調べます。まず、その人の遺留分を計算しましょう。
A まずは各相続人の法定相続分を考えます。
例えば、父が死亡し、相続人が母と子ども2人の場合の法定相続分は、母が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1となります。
B 次に遺留分割合です。
直系尊属のみが相続人である場合は法定相続分の3分の1であり、それ以外の場合は法定相続分の2分の1になります(民法1042条)
例えば、父が死亡し、相続人が母と子ども2人の場合は、母が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1は法定相続分です。
この2分の1が遺留分割合となります。
つまり、母が4分の1、子どもはそれぞれ8分の1が遺留分割合となります。
C 具体例
では、具体的に考えてみましょう。
例えば、
遺言に「長男に全て相続させる」との記載があります。
相続財産総額が不動産と預貯金を合わせて6,000万円です。負債はありませんでした。
相続人は長男・次男・長女の3人であった場合を考えます。
次男・長女の遺留分割合は、6分の1です。
遺留分の額は、相続財産に遺留分割合を乗じて算出します。
より正確には、
遺留分算定の基礎となる財産額=被相続人が相続開始時に有していた財産の価格(①)+贈与財産の価格(②)-相続債務の全額(③)です。
上記の場合、相続債務がないので、不動産と預貯金を合わせて6,000万円です。
つまり、6000万円×1/6=1000万円
これが次男、長女のそれぞれの遺留分額となります。
次男、長女ともまったく財産をもらえないので、長男は、次男・長女の遺留分を1,000万円ずつ侵害していることになります。
③話し合いで解決する
遺言書をせっかく作ってくれたのに、遺留分を支払わなければならないことに納得がいかなかないこともあるでしょう。遺言書があるのは、被相続人が何らかの思いや考えがあってのことなのに、遺留分を請求してくるということはその思いを無視するつもりなのかという気持ちになります。
しかし、遺留分を侵害している場合には、その人に遺留分侵害額請求権という権利があることを前提に話し合いをしましょう。
残念なことに、相続人の中には、遺留分について知らない、理解していない人も多いのも事実です。
ですので、請求する側は、わかりやすく丁寧に説明しましょう。
遺言書によって全てをもらえると思っていたのに、多額の遺留分を請求されて驚く人もいます。
遺留分は仮に遺言があっても支払ってもらえる権利であり、請求された人は支払わなくていけないことを伝えましょう。
もし、話し合いがまとまらない場合は、訴訟にまで発展します。
訴訟になれば、遺留分侵害請求が認められることになります。そうなると、時間も労力も費用もかかります。また、家族の関係も破綻してしまいます。
それらを踏まえた上で、お互いが納得できるよう話し合ってはいかがでしょう。
仮に、当事者間で話し合っても解決しない場合には、早めに弁護士にご相談ください。遺留分侵害額請求権は1年間で消滅してしまいます。何となく話し合いを続けて、そのため1年を経過してしまい、遺留分侵害請求権は消滅していると言われて権利を失ってしまった人がいます。ぜひ一度弁護士にご相談ください。