【弁護士コラム】2023年4月1日より実施される法改正の解説
今回の改正の概要
これまで民法では、遺産分割をなすべき期間は定められていませんでした。そのため,相続が開始しても遺産分割がなされないまま長期間が経過してしまうケースもありました。
遺産分割がされないまま時間が経過し,相続が繰り返されてしまい,多数の相続人による遺産共有関係となると、遺産の管理・処分が困難になります。多数の相続人による共有の状態で,相続人の一部が所在不明になり、その結果,所有者不明土地が生じてしまうことも少なくありません。これはまずいので,なんとかしなければならないということで改正しようといいうことになりました。
民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号。令和3年4月21日成立、同月28日公布)では、遺産分割の期間制限に関する規定(改正民法904条の3)をあらたに設けました。
この規定がもうけられた趣旨は以下に述べるようなところにあります。
これまで遺産分割を求めることについては、いつまでにしなければならないという時的制限がなく、長期間放置をしていても遺産分割を希望する相続人に不利益が生じないので,相続人としても早期に遺産分割の請求をすることについてインセンティブが働きにくい。その結果,放置されてしまうという事態を生じさせてきた。
また,仮に,相続開始後に長期間が経過すると、生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸してしまい、関係者の記憶も薄れてしまい,具体的相続分の算定が困難になり、遺産分割の支障となるおそれがある。
そこで,遺産分割についての期間を制限しようという規定をも受けることになりました。
弁護士による解説
以下では、この新設された規定についてみていきたいと思います。
まず条文を見てみましょう。改正民法904条の3は、以下のとおりです。
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- 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
- 一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割を請求したとき。
- 二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。改正民法904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)
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まず,「前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。」とあります。
この「前三条の規定」とは、特別受益(改正民法903条、904条)と寄与分(改正民法904条の2)のことです。
つまり,
特別受益と寄与分については,相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない ということです。ちなみに特別受益と寄与分ですが,
特別受益とは、特定の相続人が、被相続人から婚姻・養子縁組・生計の資本として生前贈与や遺贈を受けた際の利益のことです。このような利益は、相続開始のときに実際に残されていた相続財産の額と合算したうえで、各相続人の相続分を決めなければならないと定められています。
寄与分とは亡くなった親の家業を無給で手伝っていたり、療養介護を献身的に続けていたなど、「特別な寄与」をした相続人に認められ、認められた分だけ多くの財産を相続できるという制度です。
つまり、
相続が開始したのに遺産分割がなされずに10年間そのまま遺産共有の状態が継続された場合に、分割する際,各相続人の個別事情である特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分を前提にする必要はない ということです。ざっくりというと
相続開始してから10年を経過すると,法律で決めている法定相続分で分けることにしますということです。
法定相続分とは,民法であらかじめ定められている画一的な割合のことです。たとえば配偶者と子2人が相続人の場合だと,配偶者が1/2、子1/4ずつとなります。
一般的に,遺産分割の際には,法定相続分だけで決めることはあまりなく,生前贈与や寄与分などの主張がでてきて,それをもとに具体的相続分を個別に決めていくことになりますが,相続開始してから10年を経過したらそんなことはしないということです。
ただし、例外があります。「ただし書」部分をみてください。1号又は2号に該当する事由が存在する場合には、なお特別受益と寄与分の規定の適用がありますので、すこし注意が必要です。
今後の実務への影響
実務への影響ですが,先ほどの説明からわかるように,もし 寄与分や特別受益を認めてもらいたいと考えるならば,相続開始の時から十年を経過する前に遺産分割をすべき ということになります。
特別受益や寄与分を認めて欲しければ,相続開始の時から十年を経過する前に遺産分割をしなければなりません。
今回,新設された条文では相続開始の時から十年を経過する前に遺産分割をすればよいことになるから,まだまだ先だ,まだ時間的な余裕があるからしばらく放っておいていいだろうなどと考えてはいけません。
前に述べたように,時間が経過すると立証が難しくなります。生前贈与や寄与分に関する書証等が散逸してしまい、関係者の記憶も薄れてしまい,主張が認められないというおそれがあります。
遺産分割をするのであれば,できるだけ早めにすることをお勧めいたします。
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