【相談事例】相続アパートの家賃収入は誰のもの?不動産とローンをめぐる相続交渉
- 2025.07.22
依頼者情報の整理
相談者
石川さん(仮名)
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相続人
母、姉、相談者(長女) -
被相続人の遺産
複数のアパート、不動産(土地・駐車場)、預金、ローン債務等 -
相続財産の主な問題点
不動産からの収益(家賃)、負債(ローン)、代償分割
相談者の背景事情(モノローグ)
「父の相続で、複数のアパートや土地が遺産として残りました。ただ、家賃収入が発生する収益不動産について、誰がどのように引き継ぐのかが不透明です。私はいくつかの不動産と代償金を受け取ることで納得しようと思っていますが、姉や母は家賃収入のある土地を手放したくないようで、交渉は難航しています。借金もある中で、誰が負債を負い、誰が利益を得るのか、バランスの取れた分割を模索しています。」
質問と回答
質問①
「家賃収入がある不動産を引き継いだ場合、その家賃収入は誰のものになりますか?」
回答
相続人間で遺産分割協議が成立するまでは、家賃収入は法定相続分に応じて共有財産とされ、各相続人がそれぞれの割合で受け取る権利があります。ただし、分割後はその不動産を取得した相続人が家賃収入を単独で得ることになります。実務的には、アパートを引き継いだ方が家賃も得る代わりに、その物件のローン等の負担も一緒に引き継ぐという考え方が一般的です。
質問②
「アパートの収益性を適切に評価するにはどうすれば良いですか?」
回答
普通は、固定資産税評価額や相続税評価額で評価しますが、収益物件の場合は収益が適切に評価されない可能性があります。そこで、収益物件の適正評価には「収益還元法」を用いるのが通例です。これは将来的に得られる家賃収入等を現在価値に割り戻して評価する方法で、不動産鑑定士に依頼する必要があります。評価をしてもらうためには不動産鑑定士に支払う費用が1軒あたり30万円以上の費用がかかることがあります。評価対象が多い場合は費用が数百万円にのぼることもあります。収益還元法での評価を依頼するかどうかは、費用対効果のバランスを考えた方がよいでしょう。
質問③
「生前におそらく他の相続人が家賃をいろいろと使ったのではないかと疑っています。これから遺産分割を進めていくときに、他の相続人に使われた家賃収入分を取り戻すことはできますか?」
回答
他の相続人が被相続人に無断で使ってしまったのであれば、返還する義務があります。しかし、現実には、被相続人の生前に勝手に使われたという証明が困難です。特に生前に預金口座からキャッシュカードでの引き出しについて、他の相続人が使い込んだのではないかと主張しても、相手方に「私は引き出していない」と言われて「使い込み」まで立証できない場合が多くあります。そのため、取り戻すのは厳しいかもしれません。ただし、被相続人が認知症などで判断能力を欠いていた場合には、被相続人が自分で払い戻すことは困難です。判断能力を欠いていた期間になされている出金については、他の相続人が払い戻したとして取り戻しができる可能性があるかもしれません。
アドバイスの要点整理
- 家賃収入は遺産分割協議成立まで法定相続分に応じて分割される。
- 分割後は、収益不動産の取得者が家賃収入を得る代わりに負債(ローン)も引き継ぐことが一般的。
- 適正な評価を希望するなら「収益還元法」による不動産鑑定を検討すべき。
- 不動産がたくさん有る場合に、鑑定士に支払う評価費用が高額になるため、検討が必要。
- 生前に使われたお金の追及は簡単ではない。認知症時の出金には介護記録などにより、被相続人に判断能力が無かったことの裏付けが必要。
弁護士所感
この事例はアパートなどの賃貸物件(収益物件)の分割が絡むトラブルであり、不動産とその収入、負債のバランスが争点になります。単に評価額だけでなく、将来の家賃収入の分配も視野に入れた交渉が求められます。
収益還元法による評価を行えば理論的な裏付けが得られますが、そのための鑑定費用の負担が大きくなりこともあるため、費用対効果を考えることが必要。また、被相続人の生前に不明確な支出があっても、それを証明することは難しく、争点にするには慎重な準備が必要です。
収益物件をめぐる交渉は複雑となりやすいため、早期に専門家と連携し、法的リスクを把握しつつ、現実的な選択肢を探ることが不可欠です。