内縁関係の夫婦と将来の相続問題
- 2025.04.23

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ご依頼者情報の整理
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相談者
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田中さん(仮名 水戸市)
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関係者
- 小林あきらさん(仮名):相談者と内縁関係 相談者が施設入所の身元引受人となっている高齢男性(認知症・施設入所中)
- 鈴木かずこさん(仮名):小林あきらさんの長女(小林あきらさんと疎遠)
- 鈴木太郎さん(仮名):小林あきらさんの長男(小林あきらさんと疎遠・設備工事会社経営)
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相続関係
- 小林あきらさんに相続が発生すると、そのときの相続人は、長男の太郎さん(2分の1)と長女のかずこさん(2分の1)。相談者の田中さんは内縁関係ではあるが、相続人ではないため、相続権はない。
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ご相談者の背景事情
「私は、小林あきらさんとは20年近く内縁関係にあり、お世話をしてきました。そのため、あきらさんの施設入所について身元引受人となっています。彼の子どもたちは小林あきらさんと長年疎遠です。施設にも顔を見せていません。しかし、彼が亡くなった際には、小林あきらさんの地元で立派に葬儀を行っていただいたほうが、ご近所とのこれからのおつきいなどを考えるとよいのではないかと考えています。施設側からは、今のうちにもし亡くなったらどうするのか対応を決めておくようにと言われていますが、子どもたちは私からの連絡を拒否しており、どう話を進めていいのかわかりません。
また、小林さんが亡くなると、小林さんの土地の上にある、私が住んでいる建物の権利問題が発生します。そのため、彼は私にそれらの土地も含めて、多くの財産を遺贈するいう内容の公正証書遺言を残していますが、その内容が子どもたちに受け入れられるのか、異議を唱えられないかが心配です。」
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ご相談者の質問と弁護士の回答
質問1
「小林さんが亡くなった場合、身元引受人としての責任はどうなりますか?」
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回答1
- 「施設が契約上の引受人としてあなたを指定しているため、ご本人のご家族との事前の調整が必要になります。施設と話し合い、亡くなった際の連絡先を相続人に変更するよう要請しましょう。また、『子どもたちが引き取りを拒否した場合』の対応も確認しておくことが重要です。」
質問2
「遺言書があるが、相続人が異議を唱えた場合どうなりますか?」
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回答2
- 「遺言書の内容によりますが、相続人には最低限の取り分(遺留分)が保証されています。全財産のうち、子どもたちはそれぞれ4分の1(合計で2分の1)の遺留分を請求可能です。そのため、遺言書によって相談者が大部分を受け取る内容になっていたとしても、相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があります。相続人が財産を現物で求めるのか、金銭での清算を求めるのかによって、相談者の対応が変わってきます。」
質問3
「私が現在住んでいる家や、収入を得ている貸店舗はどうなるのか?」
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回答3
- 「遺言書の内容によりますが、現在の住居や収益物件を遺贈で取得することになっている場合、遺留分の問題を考慮しなければなりません。相続人が異議を唱え、遺留分に満たない場合、遺贈を受けた財産の一部を手放さぜるを得ない可能性があります。そのため、事前に、遺贈を受ける不動産の実勢価格などを確認しておき、遺留分侵害額請求を受けたときにどのようになるかシミュレーションをしておきましょう。必要に応じて、遺贈を放棄する、あるいは、遺贈を受けた不動産を売却して現金化することも検討するべきです。」
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弁護士のアドバイスの要点
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身元引受人としての調整
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「施設と話し合い、亡くなった際の対応を事前に決める。子どもたちへの連絡先変更が可能か確認する。」
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遺言書の影響の確認
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「遺留分の請求が発生する可能性を考慮し、不動産や預貯金の資産状況を把握しておく。」
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相続後の対応準備
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「貸店舗や住居の売却可能性を調査し、万が一の遺留分侵害額請求に対して支払う資金の準備を進める。」
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弁護士の所感
「本件では、将来に起こる葬儀などの問題と相続問題が複雑に絡み合っています。まず、施設と調整し、亡くなった際の対応を相続人に委ねるよう手続きすることが重要です。また、遺言によって相談者が財産を受け取る予定ですが、相続人からの遺留分請求の可能性を考慮し、事前に財産評価を進める必要があります。特に、不動産が多いため、売却の可能性や現金化の手段についても検討しておくことが望ましいです。」
本件では、①身元引受人としての負担軽減、②遺言による相続問題の整理、③遺留分請求への備えが重要なポイントとなります。施設や弁護士と連携し、相続発生後にトラブルとならないよう、早めの準備を進めることが推奨されます。